電車とか、デザインとか。

雨のち曇り 一時晴れ
「三戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン」、読了。少し読んだら寝ようと思って読み出したら、面白くて一気読み。
九州新幹線800系つばめについてがメインだが、電車についての難しい話ではなく、むしろ、この人のデザイン理論を語っている印象。
昔、私がデザイン屋だった頃、デザイン会議と称して、唯一認めた師匠と語り語った諸々のことを思い出した。私の専門は平面だったけれど、「いまだかつて見たことの無いものを作りたい」という根底に流れるものは、同じだった。
違うのは、電車は紙の上に留まるのではなく、実際に形になり、製品となり、人が乗るということ。色や外側の形だけでは成り立たない。
大学の当時は助教授だったと思うが、森博嗣という人が「デザインとは形状ではない」と言っていたことをずっと記憶していて、それもまた、思い出した。
初めてつばめの写真を見たとき、こういう新しいものをデザインする人がいるのか、と思った。その時はまだ列車の中の様子は知らなかったので、それだけだったけれど、つばめの正体は車両の中にある。日本的なもの、九州らしさ、伝統的でモダンで、を盛り込んだ内装。日本の新幹線は「JAPANっぽさが無い」、もっと日本の良いところを感じる新幹線を描いてみたいと思っていたので、それが具現化されていることがショックだった。
今から5年程前デザイン屋だった頃、移動する機会がたくさんあって、新幹線から地方の鉄道までいろいろ乗った。けれど、当時電車には全く興味が無かったので、電車の写真も滅多に取らなかったし、記憶に残っていることも少ない。電車とは移動手段以外のものでは無かったし、行きも帰りも仕事で頭がいっぱいいっぱいゆえに、電車は疲れるもので、乗り心地の良さを感じたことも無かった。
さすがにトワイライトエクスプレスに乗ったときは写真を撮ったけれど、電車の色や形が好きで撮ったわけではなかったと思う。
その中でデザイン関連でぱっと思い出されるのが2つある。
一つは九州の特急「かもめ」のロゴデザインが素晴らしく格好良いと思ったこと。このロゴだけは写真に収めた記憶がある。
もう一つが、秋田新幹線こまちのロゴが行書体みたいなのは、どうだろう、と思ったこと。当時、「日本っぽさ=筆文字」以外を模索していたらしい。
格好良いと思ったかもめのロゴ、それをデザインしたのが、三戸岡鋭治だったと今になって知ったわけだ。
今、電車に乗るとき、見るとき、感じていることは昔とは違う。さらに、この本を読んだ後に乗る電車の感じ方はもっと変わるだろう。
前に主様の鉄道好きの友達に、「新幹線の中ではどれが好きですか?」と聞いたことがあるけれど、その答えが「乗り心地」を主体に、この車両が好みだという話で、それが自分には無い答えで印象的だったことを思い出した。
電車のデザインは色と型、それも特に先頭車両の顔で決まる、と思っていたところだが、それは「人が乗ること」を考えた上でのことだと思い知らされた。
思い知らされたのはそれだけでなく、「人が乗るもの」のデザインは、凄まじい情報量と多くの人が集わないと出来ないということ。自分のデザインに人を巻き込んでいく様子が読み取れて、それがまた圧倒された。
本の最後の方には、この人独自のデザインの仕方や考え方が書いてあって、この辺りの意見は好みで分かれるところだと思う。少なくとも師匠とは考え方が違うようだった。
「鉄道デザイナーは一日にしてならず」とのことなので、今のところは地道に、ということかな。