蝉、妖精の羽。

晴れ
蝉の季節になったこの夏、見てみたいものがあった。羽化したばかりの蝉の、薄緑色の羽だ。
倅くんにとっても面白いかと思い、夜7時頃、蝉の幼虫を採集に向かう。
桜守公園の桜の木の元には、ぽこぽこと蝉の抜け出た穴が見られる。上手くいけば木によじよじと登っていく幼虫を捕まえられるタイミングではある。少し時間的に遅かったか、なかなか動いている幼虫が見つからない。と、枝を揺らした拍子に幼虫が落ちてきた。その個体を持ち帰り、虫かごに入れてみると、羽化の足場を探して登っていく。最初、プラスチックの虫かごに入れたところ、足場がつかめないらしく何度も落下したので、網製の虫かごに移し替える。
何度か落下したので大丈夫だろうか、はらはらしながら見守る。
動かなくなって暫く、10時頃になって、背中が割れだした。ゆっくりゆっくりと羽化が進む。真っ黒な目が抜け、小さな羽が抜け、反り返って手足を抜き、最後に腹が抜けると、蝉の姿になった。
11時過ぎ、縮んでいた羽が伸びた。これだ。薄緑の羽衣のような羽。

蝶のような美しさ。蝉が苦手な倅くんでもこれなら美しいと思うのではないだろうか。だが、残念なことに小学1年生は11時まで起きていられなかった。それはもちろん分かっていたことなので、おそらく私が見たかっただけなのだ。
翌朝、あの美しい蝉は姿を消していて、全く同じ位置に普通のアブラゼミが留まっていた。自由に飛び立てるようにと籠を開けてベランダに置いておいたが、全く身動きしていないようだったので、もしかしたら生きていないのかも知れないと、不安になる。重力に従ったらどうしようと思いながら籠を振ると、空に向かって勢いよく飛んでいった。